












地形と共に建つふたつのヴォリューム
斜面地にひな壇状に造成された閑静な住宅街の一角にある。眺望のよい角地にあり、古い石垣と大きな擁壁によって接道面から1層分以上高く囲い取られた敷地は、ひと家族が暮らすには余すほどの広さを有していた。
この地と巡り合ったのは2021年、コロナ禍により、さまざまな自由が失われる経験をした頃であった。平坦に分断された広い土の地面に立ち、心地よさと同時によりどころのなさも感じていた。
雨の日も晴れの日も、籠る日も、躍動する日も、安心して働き、遊び、学び、食し、眠れる場所を、この地形に点在させ、子供たちが声を上げながら縦横無尽に足を踏み鳴らせるような住まいへと、地形を再構築したいと考えた。
街や庭との関係が適切に保てるよう、ふたつの正方形にヴォリュームを一旦分節し、角度を振って配置した。そこに生まれる隙間や重なりに、内外一体となった視覚を連続させ、場と場を繋いでいる。擁壁に囲われながらも道に面する地階、広い土の庭と接する1階、眺めよく浮かぶ2階、明瞭に異なる内外の関係性を生かしてゾーニング しながら、これら3層の空間を分断することのないよう多様な動線を巡らせることとした。
45度振られた正方形のヴォリュームは、窓を点在させ、外接した折曲がり階段や渡り廊下、ブリッジが外螺旋を描く。一方、道路と平行な正方形のヴォリュームは、その吹抜けや段差を繋ぐように、家具状の箱階段が内螺旋を描く。地階から1階へは舞台のような外階段、土間、外室が巡らされる。平坦だった敷地に、どの場所からも空と地が繋がるような回遊性が生まれた。
描かれた平面以上の展開が、そこには待っている。木とコンクリートの構造、間仕切り壁、家具、建具が歪に自立しながら曖昧に共存し、その隙間に視線が抜ける。あらゆるものが暮らしのスケールの中に自在に現れ、多角的に展開し、豊かな体感を味わうことを目指した。
(竹原義二)
- 掲載誌:新建築 住宅特集 2024年6月号
- 施工:伊藤嘉材木店
- 写真:絹巻豊